大判例

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大阪高等裁判所 平成2年(行コ)66号 判決

亡星野竹之進訴訟承継人

星野眞佐子こと

控訴人

星野子

亡星野竹之進訴訟承継人

控訴人

星野泰享

亡星野竹之進訴訟承継人

控訴人

前出松子

右三名訴訟代理人弁護士

佐藤克昭

村松いづみ

竹下義樹

被控訴人

地方公務員災害補償基金京都市支部長田邊朋之

右訴訟代理人弁護士

千保一廣

橋本勇

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が、亡星野竹之進に対し、昭和五四年七月二五日付けでした地方公務員災害補償法による公務外認定処分を取り消す。

三  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  当事者の主張

次のとおり補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正部分

(一)  「基礎疾病」(本誌五九〇号〈以下同じ〉)とあるのをすべて「基礎疾患」に改める。

(二)  一四枚目裏六行目の「原告らの」(96頁2段13行目)から同七行目末尾(96頁2段14行目)までを「被控訴人は右撤回に異議を述べた。」に改め、一五枚目表五行目全部(96頁2段30行目)と、同九行目の「こと、それが公務に起因するものではない」(96頁3段5~6行目)とを削る。

(三)  一七枚目裏三行目の「入った」(97頁1段29行目)から同行の「あったこと」(97頁1段31行目)までを「入り、午後六時一五分ころから」に改める。

2  当審における控訴人らの主張

原判決は、公務災害における因果関係の判断にあたって、予見可能性を要件として付加し、本件を公務災害として認定することができないとしたが、竹男の従事した公務が共働の原因となっていれば足りるとする近時の判例の見解によれば、明らかに竹男の脳動脈瘤の破裂については、公務が共働の原因になっていたものであり、本件はまさに公務災害として認定されるべきものである。

3  当審における控訴人らの主張に対する被控訴人の反論

本件が公務災害として認定されるべきものであるとする控訴人らの主張は争う。

原判決が「予見可能性」を因果関係の要件としたことには問題があるとしても、本件においては、たとえ、予見可能性を要件としない立場に立ったとしても、公務と竹男の死亡との間の相当因果関係は否定されるのであり、原判決の判断は結論として容認されるべきものである。

三  当裁判所の判断

1  請求の趣旨の訂正申立等に対する被控訴人の主張についての判断は、次のとおり補正するほかは、原判決の「理由」欄の「第一 被告の請求の趣旨訂正に関する主張の判断」(原判決二一枚目裏五行目冒頭(98頁3段15行目)から二二枚目裏四行目末尾(98頁4段30行目)まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  二一枚目裏八行目の「訂正」(98頁3段22行目)の前に「趣旨」を加え、同行の「訴えを」(98頁3段22行目)を「訴えの」に改める。

(二)  二二枚目表五行目の「できないし」(98頁4段9行目)から同裏二行目末尾(98頁4段26行目)までを「できない。そうすると、右請求の趣旨訂正申立は訴えの変更ではなく、右申立は自由に撤回ができるものであって、この撤回に対する被控訴人の異議は訴訟法上何らの意味をもたないと解するのが相当であるところ、控訴人らは、平成元年六月九日の原審第三一回口頭弁論期日において、右申立を撤回しているのであるから、これによって、本件請求の趣旨の訂正はなかったことになる。」に改める。

2  竹男の死亡に関する公務起因性についての当裁判所の見解及び本件判断の基礎となるべき事実関係の認定は、次のとおり補正するほかは、原判決の「理由」欄の「第二 本件請求についての判断」の「一 当事者間に争いのない事実」、「二 公務上災害の判断基準の検討」及び「三 竹男の発症と死亡の公務起因性について」(原判決二二枚目裏六行目冒頭(99頁1段1行目)から三八枚目表一〇行目末尾(104頁2段26行目)まで)記載のとおりであるからこれを引用する。

(一)  「基礎疾病」とあるのをすべて「基礎疾患」に、二四枚目表末行の「認定すべき」(99頁3段16行目)から二五枚目表三行目末尾(99頁4段13行目)までを「認定すべきであり、被災職員に疾病の素因ないし基礎疾患がある場合には、少なくとも公務遂行がこれと共働原因となって発症をみたといえることが必要と解すべきであるから、被控訴人の右主張は採用できない。」に改め、同四行目の「当裁判所」(99頁4段15行目)の前に「第一二五号証、乙第四六号証、」を加え、二六枚目裏九行目の「なっいる」(100頁3段1行目)を「なっている」に改める。

(二)  二七枚目表七行目の「二2(一)(二)の訂正前の」(100頁3段18行目)を「当事者の主張二2の訂正前の請求の」に、二八枚目裏一行目冒頭の「ものであるが」(101頁1段7行目)を「もあり」に、同五行目の「できるが」(101頁1段15行目)から同六行目末尾(101頁1段18行目)までを「できる。」に改め、二九枚目表二行目の冒頭(101頁2段1行目)から同五行目末尾(101頁2段8行目)までを削り、同裏二行目の「緊張するが」(101頁2段25行目)から同五行目末尾(101頁2段31行目)までを「緊張する状況にある。」に、三〇枚目表一〇行目の「おそれは」(101頁4段3行目)から同裏二行目末尾(101頁4段10行目)までを「おそれがある。」に、同五行目の「乙第一〇号証、」(101頁4段15行目の(証拠略))を「乙」に改め、同七行目の「二九号証」(101頁4段17行目の(証拠略))の前に「一〇号証、第」を加える。

(三)  三一枚目表三行目の「行っており」(102頁1段1~2行目)から同七行目末尾(102頁1段9行目)までを「行っていた。」に改め、同八行目の「三か月間」(102頁1段10行目)の次に「(昭和五三年一〇月から一二月まで)」を加え、同九行目の「多い」(102頁1段12行目)から同一〇行目末尾(102頁1段15行目)までを「多かった。」に、同裏三行目の「あったが」(102頁1段23行目)から同四行目末尾(102頁1段25行目)までを「あった。」に、同六行目の「あるが」(102頁1段29行目)から同七行目末尾(102頁2段1行目)までを「ある。」に、同一〇行目冒頭の「されては」(102頁2段6行目)から同行末尾(102頁2段8行目)までを「されている。」に改め、三二枚目表二行目の「しかしながら」(102頁2段13行目)から同三行目末尾(102頁2段16行目)までを削り、同七行目の「したが」(102頁2段24行目)から同一〇行目末尾(102頁2段29行目)までを「した。」に改める。

(四)  三二枚目裏二、三行目の「一五日」(102頁3段4~5行目)を「一九日」に改め、同行の「消防職員」(102頁3段4~5行目)の前に「竹男が属する警備第二係の」を加え、同三行目の「差異がなく」(102頁3段6行目)から同五行目末尾(102頁3段10行目)までを「差異はなかった。」に改め、同七行目の「第三九号証」(102頁3段12行目の(証拠略))の前に「第一九号証、」を、同九行目の「第二〇号証の三」(102頁3段12行目の(証拠略))の前に「乙」を、同行の「浅田守彦」(102頁3段12行目の(証拠略))の次に「、同岩田守」を加え、三三枚目裏五行目の「うかがわれる」(102頁4段18行目)から同七行目末尾(102頁4段23行目)までを「認められる。」に、同九行目の「六四・一kg」(102頁4段27行目)を「六四・二kg」に、同行の「七五」(102頁4段27行目)を「七〇」に改める。

(五)  三四枚目裏五行目の「過ごした」(103頁1段29行目)から同七行目末尾(103頁2段1行目)までを「過ごした。」に、同八行目の「受けた」(103頁2段3行目)から同一〇行目末尾(103頁2段6行目)までを「受けた。」に、三五枚目表二行目の「一七分」(103頁2段10行目)から同三行目末尾(103頁2段14行目)までを「短い約四〇分であった。」に改め、三六枚目表一行目の「六時三〇分ころ」の前に「午後」を加え、同末行の「同日」(103頁3段19行目)を「同月二〇日」に改め、同裏六行目の「第六〇号証」(103頁4段13行目の(証拠略))の前に「甲」を、同行の「当裁判所」(103頁4段13~14行目)の前に「第九二号証、第九三号証、当審証人寺尾榮夫の証言、」を加え、同一〇行目の「先天的に発生し自然に成長するものであるとされ、」(103頁4段22~23行目)を削る。

(六)  三七枚目表五行目の「第二〇号証」(104頁1段1行目)の前に「弁論の全趣旨により真正な成立が認められる甲」を、同六行目冒頭の「によれば」(104頁1段2行目)の前に「、当審証人新宮正の証言」を加え、同七行目の「これらは」(104頁1段4行目)から同八行目の「要因のうち」(104頁1段6行目)までを「これは、数多くの外的要素のうち」に改め、同九行目の「これによって」(104頁1段8~9行目)の前に「外的要素は無数にあるところ、」を加え、同裏二行目冒頭(104頁1段15行目)から同四行目末尾(104頁1段20行目)までと、同五行目の「そして、」(104頁1段21行目)と、同六行目の「、休息中」(104頁1段23行目)とを削る。

(七)  三八枚目表四行目の「バルサス」(104頁2段13行目)を「バルサルバ」に改め、同一〇行目末尾(104頁2段26行目)の次に改行のうえ次のとおり加える。

「 右によれば、脳動脈瘤破裂の機序として精神的ストレスなどによる一過性の血圧上昇が考えられるところ、当審証人新宮正も、同旨の証言していること並びに弁論の全趣旨によれば、脳動脈瘤破裂の機序がすべて明らかになっているとはいえないが、少なくとも、精神的ストレスなどによる一過性の血圧上昇も脳動脈瘤破裂の有力な一原因になると認めるのが相当である。

なお、成立に争いのない乙第四〇号証(寺尾榮夫作成の鑑定意見書)中には、脳動脈瘤の破裂に関して、内圧よりも動脈瘤壁の類繊維素変性(壊死)という組織的・組織化学的な変化が重要な役割をする旨の記載があるが、当審証人寺尾榮夫は、血圧の変動、とくに上昇血圧は脳動脈瘤の破裂と関係がある旨証言しているのであるから、右乙第四〇号証の記載内容は右認定を左右するものではなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」

3  そこで、以上の見解及び認定事実に基づき、公務の遂行と竹男の脳動脈瘤破裂との間に、相当因果関係の存在が認められるか否かについて検討する。

(一)  前示の各認定事実・判断に照らすと、竹男の勤務していた消防職員としての日常の業務は精神的肉体的に負担が多く、これにより竹男は現実に相当な疲労を蓄積していたものと認められる。そして、竹男の発症当日の公務は、低気温の中で実施された施設活用訓練に参加し、訓練後の帰署に際しても消防車に側乗して寒気にさらされ、加えて、その後、通常より短い休憩時間を経たのち、体力練成訓練として勤務署の外周道路を走ったのであるが、通常は駆け足で二周するに止めるのに、この日は五倍の一〇周一八〇〇メートルを走り、しかも最後の一周の一八〇メートルは全力で走ったものであること、竹男はその直後倒れて嘔吐し、いびきをかいて眠り始めるなど、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の症状を示していることが認められる。そうすると、脳動脈瘤破裂の機序として精神的ストレスなど一過性の血圧上昇が考えられるのであるから、この駆け足及び全力疾走のような運動により一過性の血圧上昇が生ずるものであること(成立に争いのない〈証拠・人証略〉)に照らすと、竹男の脳動脈瘤破裂の直接の原因は、その直前の体力練成として行った駆け足及び全力疾走によって生じたものと推認でき、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(二)  結局、以上を総合して考えると、竹男の脳動脈瘤は、同人に存した先天的因子に後天的因子が加わって形成されたものであるが、その後天的因子に公務遂行が全く無関係であると断定することはできないけれども、それが共働の原因にあたるとして、法的な意味で因果関係があるとまで認めることは困難である。しかし、竹男の脳動脈瘤破裂は、消防職員としての公務遂行により疲労(精神的・肉体的負荷)が徐々に蓄積され、死亡当日までに脳動脈瘤が破裂し易い状態になって、死亡当日、低い気温の中での施設活用訓練に参加等し、さらにその後、全力疾走を含む体力練成訓練をしたため、右脳動脈瘤がその自然的経過を超えて憎悪(ママ)した結果発症したものと推認するのが相当である。

そうだとすれば、竹男の死亡は、その形成について公務遂行と因果関係があるとまでは認められない脳動脈瘤が、公務遂行に伴う前記のような負荷によって自然的経過を超えて憎(ママ)悪した結果破裂したことによるものであって、右脳動脈瘤の存在と右公務が共働原因となって発生したものというべきであるから、竹男の死亡については公務に起因するものであり、地方公務員災害補償法所定の公務上の死亡にあたるものと認めることができる。

4  以上のとおりであるから、竹男の死亡を公務外の災害と認定した本件処分は違法であり、取り消されるべきものである。

5  よって、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 北谷健一 裁判官 松本信弘)

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